2026.06.06(SAT)
●Daniel Caesar(Canada)『Son Of Spergy』(2025)
●昨日の続き。『LGBTを読みとく』(ちくま新書)を読んだ話から澁澤龍彦の話で終わったけど、本について。と言っても、昨日の読み始めと読み終わった今の感想は違うのだけど。
まず、読み始めに思ったことは10年くらい前の学生のときに読んで、個別の内容はそれほど覚えていなかったけど、そこで書かれている原則というか、考え方の枠組みを知らないうちに内面化していたというか、とにかく今も考えの地盤になっている面があるな、ということだった。当時読んでおいてよかった、と素直に思った。
あとは、私は飽きっぽくて、基本的に一度読んだ本を再読することがないのだけど、今急にセクシュアル・マイノリティ的なものに関心が出てきて、ふとこの本を読み返してみたら、(まあ9年も経ってれば)前回読んだときより深く「読める」ようになっていて、とても素朴で当たり前な再読の愉しさをほとんど初めて体験した気がした。
内容はキリがないので、表面的?なことを言うと、この本のまず最初にセクシュアルマイノリティに差別意識がある人たちは決まって「自分はセクシュアルマイノリティに偏見はないが、……」と言う言葉を使う、という話から結構痛烈なマジョリティの側にある偏見とか差別の意識を指摘していて、ここから話を始めるのが入門書としてとても良いと思った。(昔確かとんねるずの番組で、顔の濃い男性アナウンサーが誰かに「彼はゲイだから」みたいにいじられて(この時点でありえないのだが)、まさに「ゲイの方に偏見がないですが、私はゲイではありません」みたいなことを言っていた。もちろん、まずイジリが最悪だしアナウンサーもとばっちりではあるのだが、そのとき「偏見がない」のならその「断り」はいるのか?と思った覚えがある。)
あと、文中でことあるごとに実際の会話レベルであり得そうな(しかし深刻な)差別的な考えや意見に対して、華麗なレトリックなどではなく結構ゴリゴリの論理で反論しているのが中々いいと思った。(それはそういう差別してくる人たちへの実際上の反論の際の「武器」というよりは、「そんなことは明確に間違っている」と思っている人がちゃんと自信?を持てるように、という方向で。)
例えば、特に同性愛者をさして、「彼らは生殖を前提としておらず、種の保存という『本能』を考えれば、『生物学的に正しくない』」というような考えについて。(同種の意見?で、杉田水脈の「子どもをつくらないものには『生産性』がない」という驚くほどひどい主張もあったわけだが。)
また、「生殖・種の保存という生物の営みの基礎的な条件を満たせない」ことをもって「生物学的に正しくない」と表現しているという主張も、一貫したものとみなすことはできません。あらゆる生物種において生殖活動をする個体もしない個体も存在しますから、生殖活動をしないがゆえに「生物学的に正しくない」とすると、私たちの世界には「生物学的に正しくない」牛や馬や豚や鶏やアリやアザラシやパンダなどが多数存在することになります。しかし、私たちはこれらに対して「生物学的に正しくない」という表現を使うことはほぼありません。そもそも生物学は個別の生物の生き方を「正しい」とか「正しくない」とか論評する学問ではありませんから、生殖したりしなかったりする生物を調べ、珍しかったりよくわからなかったりする現象の仕組みについて分析し考察するだけです。
そして、これが単に相手を黙らせるための「論破」でなく、普通に新しい考え・論理として「ああ、そうだよな」と思える書き方なのが大事だと思う。
次は、まずトランスジェンダーについてまだまだ知らないなと思ったので(特に制度や医療的な面で)、それについての本を読んでみようと思う。加えて本文にもあるようにセクシュアルマイノリティはLGBTだけでは全然ないのでその辺についても勉強したい。
●少し話は逸れるが、さっき書いた杉田水脈の「子どもをつくらないものには『生産性』がない」のような「トンデモ」意見というのは、まず極端な無知から表れるのはもちろんだけど、こういう「前提が1つだけじゃなくて2つも3つも間違えている」ような意見というのは、正面からの「反論」がほとんどできない。
まず、この命題らしきものの問題がある点を挙げてみる。
(1)「生産性」という言葉は、例えば工業製品の製造に必要な時間・手間・お金というコストに対してどの程度の効率でそれらを生産できるか、を表すことが多いと思うが、それを人間が人間(子ども)を産むということに転用することは、端的にアナロジー?として破綻している。(シンプルによく分からない。)
(2)好意的に?含意を汲めば、子どもをつくる(≒人口が増える)ことは経済活動の参加者が増えることであり、子どもをつくるヘテロセクシャルの人らに比べ、子どもを作らないセクシュアルマイノリティの人らは、経済の規模の拡大に貢献できず劣っている、というようなことなのだろうが、もう反論するのも馬鹿馬鹿しいくらい色々間違っている。
(3)そもそもヘテロセクシュアルの人の中にも、子どもをつくらない人はいくらでもいるわけで、まずその人らに対しても明確な差別になっている。また、一方でそれでもなお、「子どもをつくらない」ということをわざわざセクシュアルマイノリティに限定していうことに、その「『生産性』がない」とやらの主張以前に、セクシュアルマイノリティに対する積極的な(ヘイトスピーチ的な)攻撃性が含まれている。
こんな感じで色んなレイヤーで問題あるのだが、厄介なのが、こんなふうに色々と間違いすぎている「複雑にからまった結び目」のような意見に対しては、一つ一つの間違いを丁寧に指摘して(結び目を解いていく)ことは極めて困難だ。(できたとしても、問題のある側が不用意に行った(だが深刻にある人らを傷つける)発言や意見の「軽さ」に対して、間違いを指摘していく側の「困難」に大きな非対称性がある。)で、今は結び目の比喩で言ったので、頑張れば解けるような印象になるが、実際は、間違った前提に間違った前提が複数絡むと、もう「めちゃくちゃ」になって、整然と?間違いを正すのは原理的に不可能だとも思う。(一つ言っておくと、それは「個別の言表や意見に対して」であって、それを言った個人の考えが変わる(嫌な言い方だが)変えることはある/できる。)
で、こういうことを平気で言いまくるのがトランプなわけで、毎回毎回「めちゃくちゃ」なことを言われ続ければ(ニュースで聞いていれば)、反論するのも馬鹿馬鹿しい・面倒だ、ということで人々をうんざりさせて、もはや反論する意気をなくす、そしてトランプの権力掌握が続く。こういう「正気」じゃない状態がずっと続いている。
●イベントをやらせてもらう場所として気になっていた横浜のザ・シティイのイベントに行った。運営の方や来ていた方もとても良い方たちで、私の考えている企画にも興味を持っていただき、(割と早めに)面白いことが一緒にできそうだ。いい出会いだった。