第一回
風間が自身のサイトを作るときいたのはずいぶん前で、小説を書きたいんだけどという話をしたのはこの前会ったときから数えて、三回ぐらい前だった。深夜の電話、お互いにかけたくなって……
セイタ、
セイタに子どもが生まれた、二日前にラインで連絡が来た。赤ちゃんの写真を送ってくれたが父親(セイタ)に似ている。オトナが、
「目元がパパにそっくりねえ」
「ほんとねえ」
と話しているのは、実際に聞いた記憶なのか、テレビとか小説の会話の記憶なのか。こういう会話の記憶はあるが、そういう場に立ちあった記憶がない。ものごころついてから、親類に子どもが生まれてみんなで見に行った記憶もない。そんな場面のあったテレビドラマを観た記憶もない。倉本聰が亡くなったばかりでXに「前略おふくろ様」の場面が流れてくる、どんなテレビドラマ?と思い出そうとするとぜんぶ「前略おふくろ様」になる。生まれたばかりの赤ん坊がパパとママに似ているとは思えない。
ガッツ石松にしか見えない。ときく。ガッツ石松のお守りが売ってなかったか?
ネットで検索して新生児とガッツ石松を見くらべてみたがそんなに似ていない。
セイタの子どもは二週間前ぐらいに生まれたばかりだが、こんなに立派な?と思う髪の毛をしていて、(写真を見ながら)横で両手をグーにして、目をつむって静かに寝ている。白い蝶ネクタイの晴れ着、髪の毛、とにかく生後二週間でこの毛量に驚いて、でもセイタと同じくストレートのサラサラ髪を、お父さんかお母さんが写真を撮るのに整えたのかきれいに櫛が入っていて、キュッて口を閉じて寝ている。
目元がセイタに似ている。
セイタから赤ちゃんの写真をもらって「おめでとう!」と返したけど風邪をひいていたからそれ以上返せなかったけど、電話をしたほうがいいんじゃないか、電話をかけるとセイタは「今風呂から上がったところ」と言った。
「思ってたよりおだやかだよ、おとなしい子、いろいろ聞かされて覚悟してたけど、まあ、まだ三週間だけどね、もちろんこれからだけど」
小学校には南側に校庭と、西側に校舎の横に小さい校庭があって、大きい校庭のほうはサッカーをする連中が使っていたからいつも小さい方にいた。花壇があり、ぼた山があり、畑がある。この畑には三年生のときにひまわりを植えた。ほかの季節は用務員さんが耕していたが、なにも植わっていなかったのか、そのむこうに柵があって、川沿いの一通の道がある。自転車が逆走している。右から左に走り去っていく。アスファルトの道に穴が開いていて前輪がハマる。そのまま走って抜ける。タイヤはまだパンクしない。
保育園の校庭のまわりには柵(フェンス)があって、もちろん校庭はフェンスで囲われている。団地の一階が保育園になっていて、今はべつの場所に移転した。小さいプールで手を前に伸ばして、泳ぎの競争のスタート前の写真が卒業アルバムの乗せられている。へその形がほかの人と違うことに気がついていて、小学生になると手で隠していた。中学生になるとほかにももっと恥ずかしいところが増えた。
校庭のフェンスのむこうにラジカセを持った30後半ぐらいの男が来た。私たちはラジと呼んでいた。知的障害のある人だが、当時はわからなかった。ラジがフェンスのところに来て手を振ると、校庭(保育園だから庭)で遊んでいた子どもたちがラジのところに集まって話した。ラジは話はしなかった。ニコニコ、体をくねらせて、ラジカセを地面に置いて、子どもたちと戯れていた。